アートの専門家・徳永晴司さんに聞く①|美術品の売却実績とオークションの裏側

美術品や骨董品は、いざ手放そうと考えたとき、
「どの程度の価値があるのか」
「どこに相談すべきなのか」
といった不安や疑問を抱く方も少なくありません。
そこで今回は、
あきなやが美術品案件で連携している
アートの専門家/美術・骨董鑑定のプロ
徳永 晴司さんにお話を伺いました。
美術品は、
誰が、どこで、いつ売却するかによって、
その結果が大きく変わるものです。
本記事では、その理由を実際の売却事例を交えながら、
分かりやすくひも解いていきます。

お話を聞いた人
アートの専門家/美術・骨董鑑定
徳永 晴司 さん
とくなが美術 代表
主な経歴・実績
・京都老舗表具店にて7年間修行
・銀座画廊勤務 約30年
・美術オークションにて8,000点以上の作品を確認
・2019年 とくなが美術 創業
・日本一の旅館「加賀屋」美術アドバイザー
日本画・洋画・工芸・骨董品をはじめ、
高額・希少な美術品の鑑定および相談に対応。
現在、Treead株式会社と連携し、
資産整理・法人案件など、
高度な判断を要する美術品案件にも対応している。
―― あえてお聞きします。
徳永さんにアートの査定をご依頼するメリットは何でしょうか?
まあ落ち着いてください。
ひとつずつ丁寧に説明しますが、
大きく分けると二つあります。
それが、
アートを「見る力」と「売る力」です。
手前味噌ではありますが、
私にご依頼いただく際には、
この二点を評価していただくことが多いです。
この業界の情報はかなりブラックボックスで、
アート作品の価値についても、
鑑定士であっても分からない
専門領域や得意分野が存在します。
―― まず、プロの視点でいう「見る力」とは
何を指すのでしょうか。
「見る力」については、
どれだけ多くの作品に触れてきたか。
そしてアートの売買経験を通じて、
どこを見るべきかを理解しているか、
という点にあります。
そのうえで、
作品に対する深い知識が求められます。
また、
自分だけでは判断できない分野について、
気軽に聞ける人とのつながりがあるかどうかも、
非常に大切なポイントです。

――「売る力」はどのような場面で
違いが表れるのでしょうか。
「売る力」は、
作品とオークションの相性を見極める場面で
大きな違いが表れます。
ジャンル、作家、状態、付属品、国内外の需要など、
さまざまな条件を踏まえたうえで、
どの市場で出すのがベストかを
しっかり時間をかけて考えます。
極端な例ですが、
売り場を間違えると、
100万円の価値があるものが、
50万円の評価にとどまってしまうこともある世界です。
通常、出したいオークションがあっても、
一見さんお断りの会場が多く、
すべての希望がかなうとは限りません。
その点、
長年この業界で培ってきた経験と、
人とのつながりを活かすことで
作品に適した売却先をご提案できることが、
私の強みだと考えています。
――「人とのつながり」が
大きな差をつけるのですね。
仲間に頼れるかどうかが重要だと思っています。
長年この業界で仕事をしてきた中で、
出会った人とのご縁を大切にしてきたからこそ
困ったときに助けてくれる人たちがいます。
その仲間を通じて、
本来出したかったオークション会場につなげてもらえることもあります。
振り返ってみると、
そうした「人とのつながり」こそが
自分の大きな強みになっていると感じています。
―― どのような方からの相談が多いのでしょうか?
ご相談で最も多いのは、
税理士の方からのご依頼です。
相続や遺品整理の場面で、
「この美術品にどの程度の価値があるのか分からないため、一度見てほしい」
というケースが数多くあります。
不動産や預金は比較的評価しやすい一方で、
美術品は専門的な知識がなければ判断が難しい分野です。
そのため税理士の方が間に入り、
「まずは徳永さんに見てもらおう」と
ご紹介いただくことが多くなっています。
ご家族の立場としても、
「大切にしていた品を雑に扱われたくない」
「安く手放して後悔したくない」
という思いを抱えていることが少なくありません。
そうした不安を整理し、適切な判断につなげる役割を
求められていると感じています。

―― 依頼される方が
一番不安に感じている点は何ですか?
いちばん多いのは、
「値段の根拠が不透明」という不安ですね。
本当は100万円のものを、
50万円と言われるかもしれない。
実際に値段をつける業者の中にも
安く仕入れたいという考えは持っているので
お客様の知識が無いと知ったら、
安い金額を提示してくる人もいるでしょう。
それはアート業界に限らず、
車や家など高額品を扱う業者すべてに当てはまると思います。
そしてもう一つ重要なことは、
持ち主の方自身も
本当の価値を把握していないケースが多いことです。
特にアートとなると複雑な要素が絡んでくるので、
通常は知識を持っていません。
だからこそ私は、
「なぜその値段なのか」をできるだけ丁寧に説明します。
納得してもらえるかどうかは、そこにかかっていると思っています。
―― 高額になりそうな美術品は
どう売るのが正解なのでしょうか?
高額な美術品の場合は、
その場で金額を決めて終わるよりも、
オークションで結果を見届ける形のほうが、
依頼者の方にとって納得につながるケースが多くあります。
依頼作品をカタログに掲載し、
下見会場で実物を見たうえで、
本番のオークションで売却価格を確認する。
そうすることで、
「なぜこの金額になったのか」を、
その場で理解することができます。
つまり、
価格だけでなく
「納得感」まで含めて売却だと考えています。
最近はこのオークションへ出品・見学型の売却が、
私の中では主なスタイルになっています。
―― 公開できる範囲で
売却実績を教えてください。
立場上、個別のお客様に関する売却実績はお伝えできませんので、
今回は、あきなやに限定して関わった案件と、
私のもとでお預かりし売却に至った事例について、
公開可能な範囲でご紹介します。
あきなや経由の売却品①
鉄瓶
2025年9月(水戸支店担当)
美術骨董品市場にて 19万円で売却

小ぶりながら、丸みのある造形や質感、装飾が評価されました。
龍文堂の要素が見られた点も、価格につながっています。

あきなや経由の売却品②
松井康成「練上壺」
2025年10月(水戸支店担当)
陶芸専門市場にて 38万円で売却

人気の形・色合い・制作年が良いことで、
高額売却へ繋がりました。

あきなや経由の売却品③
関根伸夫 「補色のパレット」
2025年12月(八王子支店担当)
美術公開オークションにて 38万円で売却

正規の鑑定機関で鑑定をおこない、
真作としての証明書を取得。
金を基調とした作品に、赤のアクセントが生えて競り上がりました。

とくなが美術お預かりの売却品
石川寅治「異国の娘」
美術公開オークションにて 165万円で売却

予想価格は8万円でしたが、
海外コレクターの参加もあり、
結果的に165万円まで評価が伸びました。
―― 予想金額の何倍にもなるようなケースは
よくあるのでしょうか?
正直なところ、
このような結果は年に数回あるかないか、という程度です。
8万円が165万円まで伸びるようなケースは、
決して頻繁に起こるものではありません。
ただし、
公開オークションには一般の参加者や海外のコレクターも加わるため、
「欲しい人が複数重なる」状況になると、
評価が一気に跳ね上がることがあります。
そのため重要になるのが、
どの場所に出すかという選択です。
―― オークションには
どのような種類があるのでしょうか?
大きく分けると、
オークションには二つの種類があります。
公開オークション
一般の方や海外のコレクターも参加するため、
条件がそろえば評価が大きく伸びる可能性があります。
一方で、作品やタイミングが合わない場合は、
期待したほど評価されないこともあります。

美術市場(限られた業者の世界)
誰でも参加できる場所ではありませんが、
その分、プロ同士が相場を踏まえて判断するため、
極端な価格の乱高下が起きにくいのが特徴です。
安定した評価が出やすく、読みやすい市場と言えます。
どちらが適しているかは、作品ごとに異なります。
だからこそ私は、一点一点の作品に向き合い、
最適な「出口」を組み立てていくことを大切にしています。
―― 徳永さんが「出口(売却先)」を
重視するのはなぜですか?
私のポリシーは、
作品のレベルに応じて
出口(売却先)をA・B・C・Dで選び分けることです。
中でもAランクにあたる美術市場は、
いわゆる一見さんお断りの世界で、
全国でも参加できるのは限られた約300人ほどにすぎません。
どの作品を、どの市場に出せば最も評価されるのか。
そこを見極められなければ、そもそも土俵に立つことすらできません。
美術品の世界は、情報が非常にブラックボックスです。
通常なら5万円で取引されてしまうようなものでも、
出口を正しく選べば、30万円以上の評価につながることがあります。
そのため、一般の方が直接市場に行くのではなく、
間に立って作品に合った出口へと導く存在が必要になる。
それが、私の役割だと考えています。

―― 「オークションは、前半に出せるかが重要」
という話が印象的でした。
これは、非常に重要なポイントです。
市場は3〜4時間にわたって行われますが、
最も参加者の集中度が高いのは、前半の1時間半です。
100人が参加していても、
前半が終わる頃には30人ほどが退出し、
さらに時間が経つと、最後には10〜20人程度になることもあります。
その時間帯に回されてしまうと、
どれほど良い作品であっても、
十分な評価を得にくくなる場合がある。
だからこそ、どの市場に出すかだけでなく、
どの順番・どの時間に出せるかまで含めて考える必要があります。
私自身で調整できない場合は、
より良い順番で出せる知人に依頼することもあります。
こうした判断や調整は、
長年この世界で積み重ねてきた関係性があってこそ
可能になるものだと感じています。
次回予告|アートの専門家・徳永晴司さんに聞く②
―鑑定歴35年。判断力はどのように培われてきたのか
次回は、徳永さんが歩んできた道のりをたどりながら、
銀座の画廊時代に培われた経験や数々の試行錯誤、
そして現在の鑑定スタイルに至るまでの背景をご紹介します。

この記事を書いた人
井上りえ|あきなや マーケティング部
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